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”Any mind short&short #5"

2007-03-05
【俺は演じている】

 彼が地元を離れてから五年ほどの月日が流れていた。仕事もそこそこ上手くいき始め、仲間もずいぶん増えた。知らない土地で生きてきた割には上手く過ごせているように思える。一見、何の悩みもないように思えるのだが、実は少し違った。彼には一つだけ悩みがあったのだ。

 幼き頃から目立ちたがりやだった彼は、友達を作るのも得意な方で常に仲間に囲まれるようにして育った。中学校から高校にかけて彼は少し間違った方向に走り始めた。喧嘩っぱやく何事も力でねじ伏せるようになり、それに従うように悪い仲間も増えていった。勉強は大の苦手で本を読むのは大嫌い、読むのは漫画ばかりで学校の授業もサボってばかりいた。色々な問題を起こしながらも何とか彼は高校を卒業することができた。卒業後の進路は迷わず就職を選んだ。しかも地元から離れた場所にある工場を彼は選んだ。理由は簡単だ。田舎暮らしに飽きていた彼は一度地元を離れたい、と前々から思っていたのだ。進学する学力は当然なく、家庭の事情も手伝って、収入の高い就職先を選んだのである。

 今まで自分が築いてきた仲間や地位、そんなものはいったん外の世界に出てみると何も役に立たないことに彼は気付いた。社会の荒波は彼を無情に襲った。礼儀作法を全くといって知らない彼にとって縦社会に対応することはかなりの苦労だった。逃げ出したい気持ちもあった。地元に帰れば安息の日々が待っているかもしれない。しかし彼は逃げることはしなかった。のこのこ帰ってしまえばきっと仲間たちに笑われる。そういったプライドだけは人一倍強かったし、家計を少しでも助けるためには働くしかないのだ。自分で稼ぐようになって初めてお金のありがたみを彼は知った。そして親がどれだけ苦労して自分を育ててきたことも。

 働いているうちに後輩も当然できてくる。人を教える立場になって初めて分かる苦労も経験した。恋人もできた。美人とまではいかないが、彼のことを一番理解してくれる女性だ。上司にも気に入られるようになった。仕事場での彼の評判は非常にいいものだった。彼のことを知る職場の後輩達は口を揃えて言う。

「あの人はすごいクールで仕事が出来るし、何よりも優しい」

 そういった環境の中で五年という歳月が流れていた。誰の目から見ても平穏無事に見える彼だったが、時々憂鬱になる時があるという。そのことに本人はなるべく気付かないふりをしていた。しかし周りの環境が良くなればなるほど、そのことが気になるばかりだった。その事とは

「今の自分は果たして本当の自分なのだろうか」

 という事だった。彼は今の自分を演じているもう一人の自分だと思っているのだ。昔からは考えられないほど無口になった。温厚で喧嘩などには無縁のような存在になり、どちらかといえば優しい、と周りに言われることが多くなった。勉強が嫌いだったはずなのに暇があれば仕事の勉強に打ち込み、資格も何個か取得した。昔からは考えられないほど頑張って世間に溶け込んでいる自分に悩むことが多くなっていたのだ。

 人間という生き物はもう一人の自分を演じることなく人生を上手く過ごすことは難しいのかもしれない。彼のように地元を離れ就職したことで新たな自分を演じて生きている人も世の中には多数いるだろう。しかしそれが良い事なのか悪い事なのか決める基準はなく。演じているのか演じていないのかを決める境界線もない。

 仲間達と酒を飲み、愛想笑いをふりまく。言いたいことも時には飲み込み、周りの空気を読む。周りからすれば良い人以外何者でもない。彼はそんな今の自分の姿に悩んでいる。好きな女性の前では相手のことを想い、嫌われないための努力もする。彼女が喜ぶ姿が見れるなら自分を偽ってでも頑張れた。そういった姿でさえも彼にとっては演じているもう一人の自分だと思っているのかもしれない。

 しかし彼は気付いていない。彼はすでにもう一人の自分など演じていないのだ。新たな人間関係を築くため、社会に適応するために最初は演じる努力をしてきた彼だったが、時間が経つと共にそのもう一人の自分は、本当の自分になったのだ。演じる続けることは彼を大きく成長させた。悩んでいるのは今の自分が嫌いだからではない。過去の自分と決別することに悩んでいたのだ。

 彼はこれから先、きっと気付くだろう。自分が演じ続けた先に手にしたモノの答えを。その答えとは。

『人は必ず変われる』と・・・

 間違った演じ方を続けてしまうと、過去の自分を捨てきれず、今の間違った自分も捨てきれない、本当の自分すら忘れてしまう可能性がある。もし今の自分に演じている部分があると感じたなら、まずは自分が思い描く理想の自分が演じれているのかを確認するべきだ。

 演じることなくありのままの自分で生きる。それが一番難しく、そして一番理想的だということは言うまでもない。

【an author tsukasa nakae】

※このテーマを与えてくれた仲間に感謝。。。
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