入口 > スポンサー広告 > スポンサーサイト ☆ musthave > ”Any mind short&short #6" vol.1

スポンサーサイト

--------
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

”Any mind short&short #6" vol.1

2007-03-12
 この作品は半年前くらいに書き上げたものです。管理人のベンジンに載せてみれば、って言われたのでこの機会に載せることにします。少々長い文章なので3回くらいに分けて掲載させてもらいます。すごく暇でしょうがない、って方はお付き合いください。

タイトル【ボンド・ソース】


【プロローグ】

 佐竹和也は母親とのコミュニケーション方法として携帯電話のメールを使っていた。しかし和也はある事に気付いた。メール上での文面が何故かお互い敬語を使っているのだ。普段、母親の佐竹京子と話す時は決して敬語など使わない。では何故、メールだと敬語になってしまうのか、和也の考えはこうだった。母の京子は半年ほど前から初めて携帯電話のメール機能を使えるようになった。
「和也のメールアドレスを教えて欲しいんだけど」
 京子からいきなり電話でそう言われた時、和也は一瞬何の事だか分からなかった。話を聞いてみると携帯のメール機能をせっかく覚えたのだから息子ともメールをしてみたいという事だった。
「どうせ俺のアドレスを教えても使わないから意味ないんじゃないの」
 そうやって冷たく言ったその言葉だったが、実は京子に対する照れ隠しだった事を和也ははっきり覚えていた。要するに京子はメール初心者だから敬語の文章が普通だと思っている、というのが和也の考えだった。下手な今風の言葉を使われるよりはマシかもしれない、という思いもあった。和也が京子へのメールを敬語で返信する理由はというと普段手紙なども書かないし、そんなに腹を割って話す機会がない和也が京子に対して何か喋る事意外で物事を伝える時、それがメールなのだが、とっさに敬語文になってしまうのだ。おそらくその時の和也の心理は、口では言い表せない普段から感じている感謝の気持ちをせめてメールでは敬語として自分なりに伝えているつもりだったのだろう。そんな風に和也と京子は、メール上では敬語でやり取りを行っていた。
 ある日、和也はいつも通り大学の授業を終えアパートへと向かう途中、携帯電話の着信音に気付いた。和也は鞄から携帯電話を取り出し、着信相手を確認した。和也の電話を鳴らしたのは母の京子だった、電話を掛けてきたのではなくメールを送ってきたのだ。早速和也は今届いたメールを開いてみた。するといつもの京子からのメールとは何かが違ったのだ。まず文面に驚いた、いつもと何か雰囲気が違う。和也はすぐに気が付いた、いつものような硬い感じの敬語による文面じゃなかったからだ。普段話している口調の感じ、いや何かそれ以上に気持ちを感じとれる文面だったのだ。メールを読み終えた和也は、少し考えた後に京子への返信メールを作り始めた。

【京子 1】

 正式に離婚が決まったのは和也が2歳の誕生日を迎える直前だった。京子は24歳になる頃、幸一という男と結婚した。京子と幸一が出会ったのは、当時京子がウエイトレスとして働いていたレストランだった。客としてこの店を訪れた幸一は京子に一目惚れをした。それから毎日のように幸一はこの店に通い始めた。ある日、いつもどおり注文を取りに来た京子に幸一は思い切って手紙を渡した。その手紙にはこう書かれてあった。

“私の名前は高木幸一といいます。いきなりの事でビックリしたと思いますが初めてあなたをこの店で見た時、私の気持ちは決まりました。
この人しかいないと。もしよろしければ今度一緒に食事にでもいきませんか。連絡先を書いておきますので良かったら連絡ください。待ってます“

 この手紙がきっかけとなり京子と幸一は交際を始める事となった。
しかし半年後、思わぬ事態が京子を襲った。なんと妊娠してしまったのだ。当時は結婚してから妊娠するのが当たり前だっただけにこれを聞いた京子の父親は激怒した。幸一は責任を取るという形で京子と結婚する事になったのである。子供は男の子だった、名前は『和也』と父親である幸一が名付けた。幸せの絶頂であったはずの生活に少しずつではあったが変化が表れていった。事態が急変したのは和也が生まれて半年くらい経った頃からだった。幸一が家に帰って来なくなったのだ。理由は簡単だった、幸一が他所に女を作ったからだ。その事に京子はすぐに気付いたのだが和也の事で精一杯だったし、幸一に問い詰めたりするような性格ではなかった。和也が1歳になる頃には、幸一が家に帰ってくる事はほとんど無くなっていた。それでも京子は耐え続けた、だがそれも長くは続かなかった。幸一は家にお金をほとんど入れなくなったし、たまに帰ってきても酒を飲んで酔っ払い暴力を振るってくるだけだった。離婚を決めたのは京子の方からだった。幸一はあっさりその離婚を受け入れた。幸一が荷物を全てまとめて出て行った日の夜、京子は初めて幸一にもらったあの手紙を読み返していた。隣で寝ている和也に、泣きながら「ごめんね、ごめんね」と繰り返し言い続けながら。

【和也 1】

 和也が小学2年生の頃、学校の授業で『お父さんありがとう』というテーマを題材にした作文を書く時間があった。その時和也は、初めて自分に父親がいない事をリアルに感じたのかもしれない。その授業が始まると和也は担任の教師にこう言われた。
「佐竹君は従兄弟のおじさんの事を書けばいいんだよ」
 おそらく事前に担任教師と母が話し合った結果、こうゆう処置がとられたのだろう。まだ幼かった和也は、この意味をあまり深く考えられなかった。後日、和也は母の姉の旦那にあたるおじさんにその『お父さんありがとう』というテーマを題材にした作文を渡した。おじさんは笑顔でありがとう大事にするからね、と和也に言ってくれた。その時和也は、誰を想ったわけでもなくただ言われたままに作文を書き上げた。自分には父親がいないという事を微かに感じながら。
 父と母は和也が2歳の頃に離婚した。さすがにその事を母に詳しく問い詰めるほど和也は無神経ではなかったしそれほど気にもならなかった。紙切れ一枚の契約で結婚したり離婚したりする大人がいる。その紙切れ一枚の契約のために振り回される子供がいる。当時の和也はそんな紙切れ一枚の契約に振り回された一人なのだ。その頃、京子は普段働きに出ていたから家にいないのが当然だった。それが当たり前だと和也も思っていた。目の前にある現実から逃げる事も許されず、逃げる力も持っていなかった和也はただ時間が過ぎていくのを待つしかなかった。唯一の楽しみは学校から帰った後、テーブルの上に置かれていた書き置きだった。そこにはその日の夕飯が何であるかという事と置き場所が書かれていた。その書き置きを見ると和也は家に帰ったという実感がした。普通の家庭でいうならば、和也にとってその書き置きは母親が言う「おかえり」という言葉の役割を果たしていたのだ。当時、和也が楽しみにしていた書き置きも敬語で書かれた文面だった。

【an author tsukasa nakae】

no.2へ続く・・・
関連記事
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。